第七話 偽札使ってみませんか?
| なんとニアピンの左胸には<本名ニアピン(笑)ヘアピン可(≧o≦)> と名札が付いていたのだ。 これにはニアピンも愕然としてしまったようだ。 しかし…いったい誰がこの名札を付けたのだ? ニアピンもそれを必死で自分の記憶の奥の奥まで探索していた。 しかし探索にあきたニアピンはケータイのメールにもう虜になっていた… ように傍目には見えた。 親指がまるでボタンを押しているかのように動めいている。 それもそのはず、ボタンを押しまくっているからにほかならない。 あたりはシーンと静まり返っている。はずもなかった。 なぜならニアピンがケータイのボタンを押しまくっているからに 他ならない。 もうすでにニアピンの口元から数的のヨダレが垂れているではないか。 自らのメールに酔ってしまっているようだ。 ところが…そんなニアピンに業を煮やした菊正宗はニアピンの背後に 回り込みやおらニアピンのケータイの画面を覗き込んだ。 そこにはなんと! <こんにちは!こんにちは!こんにちは!…> 数えたらきりが無いほどのこんにちはが。 菊正宗は背筋にやや寒いものを感じながらニアピンと相対し怒鳴りつけた! 『こんにちは!』 この言葉にはニアピンも<ビクッ>と反応した。 『こんにちは!』 挨拶成立。やはり挨拶は大事なのだ。 しかしこのお互い挨拶を交わすことによってニアピンはようやく名札を付けた主を思い出した のだった。 そうだ、そうだったのだ!名札を付けたのは実はこともあろうにニアピン本人だったのである。 驚愕の事実!現実は小説より奇なり!ってゆーか小説だし。 真相はニアピンが前日、新入社員歓迎会用に必死に自分の名札を羽田孜直伝の省エネスーツ に縫いこんだものだったのだ。 さらに下に着込んだワイシャツにも、そしてその下のランニングの下着、さらには自分の 肌にまで同じような名札が書き込まれていた。 その名札を満足そうに確認しているニアピン…かヘアピン? もう自分の苗字すら名乗れないほどに愛しそうに名札を見つめていた。 そのニアピンの姿を苦々しそうに見つめていた菊正宗であったが、その時! 彼のお腹が「グ〜」と強烈な音をたてたではないか。 ようやく菊正宗は現在の時間をそのお腹の音によって確認したようだ。 いきなり菊正宗は小さなヘリコプターを頭に乗せ、そして彼の二階の部屋から 飛び立とうとしていた。 『菊チャンそれって…竹コプターっすか?』 ニアピンが当然の疑問を投げかけたのだった。 菊正宗は口元に嫌な笑いを浮かべながら頷いていたのだった。 そしてさらには頭を左右に振り、いかにも違いますと言ったような態度をとっている。 一体どっちなんだ? 納得がいかなそうな表情をしているニアピンを無視するかのように菊正宗は自宅の窓 からついに飛んでしまった。 ニアピンはすぐに窓の外から空を見上げたがどこにも菊正宗の姿はない。 <速い、速すぎる!すげーぜ竹コプター!ぼくらの竹コプター!!!> ニアピンは感動していた。うち震えていた。 しかし、菊正宗愛用の竹コプターは分速60回転程の為、全く意味が無くあっという間に地面に落下してしまった。 さも当然ののように菊正宗は裸足のまま店に向かって歩いていってしまった。 驚くニアピン。 つーか気づけよニアピン 『だったら竹コプターもいらないし、玄関から靴を履いて行けばいいじゃないか。』 ニアピンの思いは最もである。 そもそも竹コプターは分速何回転すれば飛べるのか私にもさっぱりわからない。 竹コプターを何で頭に固定すればいいのかもわからないし、竹コプターは上には飛べるけど前や後ろには 移動出来ないと思うのだが…。 とにかくニアピンも大急ぎで頭に竹コプターを乗せて、窓から飛び降り店に向かって歩いて行った。 お前もじゃんニアピン…。さっきあんなに不思議に思っていたのに同じじゃん。 なにやら新入社員歓迎会の会場になる居酒屋<愛ふたたび>の前でウロウロウロウロしているあやしげな 中年の男性が会場の中を窺っている。 どうもどこかで見たような顔なのだが、はて?うーーーーーん…一度見たら恐らく死ぬまで忘れないような 顔をしているようなしていないような。 その忘れないようなどうのこうのの顔の男性の右の口のハジからキラリと透き通ったヨダレが乾いたアスファルトに垂れた。 はうあ!そう、そうなのだ!彼は喫茶ゴゴラドドラのマスター<石屋寛蛇>だったのだ。 『ドクターだかクランケだかハッキリしてって言わないでね』 そう言ったマスターの顔は目が異様にギョロついていた。 ここでわからない人に説明しよう。 なぜ石屋寛蛇はドクタークランケと呼ばれているのか? かしこい君ならわかるね。 苗字は<いしや>名前が<かんじゃ> ね、医者患者…すなわちドクタークランケなのさ。 どうやら中に入ろうか入るまいかマジで相当悩んでいるようだった。 なにせ彼はこの新入社員歓迎会に呼ばれていなかったからだ。 しかしどこかでこの歓迎会の情報を仕入れたようで居ても立ってもいられずに 店まで来てしまったのだ。 意を決して石屋寛蛇は店の中に飛び込んだ。 肩から下に掛けてのトルソウを思い切りぐいっと突き出しながらだ。 石屋寛蛇は興奮のあまり鼻血がガンガンに流れていた。 もう蛇口から水が出るかのごとくガンガンに流れていた。 しかし興奮している石屋寛蛇は全く意に介さずに、幹事に受付を済ませようと急いでいた。 なぜ石屋寛蛇はこれほどまでに興奮しているのだろうか。 私にはわからない、だから君たちにもわからないであろう。 ちなみに私は水中の大きな生き物を見ると興奮してしまう。 君たちはどうだろう? しかし象さんを見ても全く興奮はしない。なぜだろう? ゾウアザラシが町を徘徊している横で裸の女性が歩いていたら間違いなくゾウアザラシに 興奮するであろう。ゾウアザラシが行った後に女性を見て興奮するのだ。 二度おいしい。 余談はこのへんまでにして、石屋寛蛇が幹事にお金をなにやら払っている。 しかし幹事の様子がおかしい。 突然石屋寛蛇の胸倉をつかみ、ものすごい剣幕で怒り始めたではないか。 と、そこへ宗像社長、川島専務のご到着。 『なーにを揉めとるのかね。同じ揉めるのでも女性のふくよかな胸ならばワシもぜひにも 頼みたいところじゃがの、ぶわーはっはっはっはっは!』 おおらかな宗像の笑い声が店の中をコダマした。 川島専務も満足そうに笑っている。 しかしそんな言葉などお構い無しに幹事は石屋寛蛇を問い詰めていた。 『あんたどういうつもりだよ、あんたこの金偽札じゃねーか!出るとこ出るよマジで。 出るっつったって甲子園じゃないよ。』 偽札だって!?ドル札の間違いじゃないのか? 宗像社長もそのやりとりを聞いていたのかいないのかその幹事が持っている偽札なる ものを拝借してよーく観察してみた。 そう、よーく観察してみた。 よーく観察して… 『ワシ偽札とかなんとかなんてわからんのだが、このお札はあれだよね、なんか違うよね。 なんか違うというかなんだろう?これは…多分コピーじゃろうなこりゃ。 しかしコピーとは言ってものう、これってし、白黒じゃわい!しかも表面だけコピーして 裏面はなにもないではないか!』 なんと!石屋寛蛇は偽札を使ってこの新入社員歓迎会に出席しようとしていたのだ。 どうりであの先ほどまでの興奮のしようも理解できるではないか。 しかし白黒のコピーの偽札とはまさか…しかも表だけ。 誰しも言葉を失ってしまった…かに見えたのだが石屋寛蛇本人は透き通った目で 『すいませんっした!した!』 と言葉を失うどころか悪びれたそぶりも見せずに、爽やかな謝罪を幹事に述べた。 その姿を見た宗像社長と川島専務は感無量の様相だ。 『マスター、ワシは日本晴れをこの数年見たことが無い。 しかしもし人間の表情で日本晴れを表現してみろと問われたら、マスター、今のあなたの その表情なのかもしれんな。まさにアッパレじゃマスター!今日はワシのおごりでマスターも 一緒に出席せい!』 マスターこと石屋寛蛇は感激のあまり店の柱一つ一つにタックルをしてみせた。 涙を散らばらせながらのタックル…石屋寛蛇、君のタックルは美しい。 その涙の後には虹が掛かったという。 その近くでは川島専務が女性のスカートの中を盗撮しまくっていた。 いつかこの人捕まるんだろうな。 と思っていたら早速警察の関係者が宴会をやっていたようであっさりバレて御用となった。 『社長、わたくし二週間ばかり社を留守に致しますが心配致さないでください。 なーに会社に迷惑が掛かるようなことは致しませんって。 全国ストーキング部の会長を務める男ですぞ、このわたくしは。』 逮捕された時点で会社に迷惑がかかっていることなどお構い無しに、自慢っぽく話して いたずらな笑みを浮かべながらパトカーで連行されていってしまった。 そこへ菊正宗とニアピンが店へ入ってきた。 なんとその菊正宗の右手には見たことのある紙幣が? その紙幣を見たマスター石屋寛蛇の表情が少し曇ったように見えたのは気のせいか。 なぜ警察は川島専務だけを捕まえていったのだろうか…ここにも偽札犯がいるというのに。 |
第七話 偽札使ってみませんか?
(完)
次号をお楽しみに!
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