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第六話 熱いお湯は好きですか?


兎にも角にも二人はあまりにもハードに動き回っていたために非常に汗をかいていた。
『ニアピン、とりあえず俺の家でひとっ風呂浴びてくか?』
菊正宗はニアピンに声をかけた。
ニアピンはあまりのうれしさにガッツポーズ!!!瞳にはうっすらと涙が浮かんでいたそうな。
『謹んで入らせていただきます。でもお湯の温度は40度にしてね。僕って肌が敏感なもんで…ひとつよろしく!』
この言葉に菊正宗がキレた。言葉も掛けずにまず左のローキックでバランスを崩すと間髪いれずに左フック、そしてリバーブロー、仕上げにキッスのお礼でもうニアピンメロメロ。完璧にダウンしてしまった。
『チッ!俺を舐めてっからだよ。俺はやる男なんだよ、クソッタレが。田中都知事に一票!!』
…多分県知事ではないのかな?と思うだろうが別段意味はない言葉のオンパレードでそのままニアピンを肩に背負って風呂へと入って行った。

先ほどニアピンを滅多打ちにした菊正宗だったが、実は自分自身もお湯の温度は40度でなければダメと言う子供体質であったのだ。
いつも通りにお湯の温度を慎重に測る菊正宗。温度計は42度を少し上回った所を指していた。
『あのババア毎日毎日言ってんのにまーだわかんねーのかよ。お湯は40度じゃなきゃダメなんだよ!なんでこんなに毎日毎日42度をちょっと上回ってるんだよ。まるで俺が42度をちょっと上回った温度が好きみてーじゃねーか、クソッタレが。田中都知事に一票!!』
まーた都知事かよ、県知事だっつーんだよ。しかも二票目だよ、しなやかすぎだっつーの。
とりあえず40度まで水で温度を下げる菊正宗だったがちょっと温度計から目を切った隙になんと38度ぐらいにまで温度が下がってしまったのだ。
これに頭にきた菊正宗はニアピンの頭から思い切りシャワーの水を原水のまま注いだ。
『なになに?津波?洪水?それとも?なんだよ最後のハテナ?ハテナハテナかよ!!』
?がありすぎて何に疑問を持ったのか訳がわからなくなってしまったニアピン。しかし元々が訳がわからない人間なのでこれでいいのだ。
そんな姿を菊正宗が冷ややかな表情で見つめていた。
その目はさながら水族館であったマンボウのような目であった。
『ニアピンこれ見てみろよ、な、摂氏38度スィーだよ。これじゃーぬりーんだよてめーは!なんとかしろよお前は、先輩なんだろ?』
ことお湯の温度に関しての菊正宗はそれはそれは鬼のような厳しさで定評がある男だ。
3年前の”お湯博士アジア大会INタジキスタン”では並み居る強豪を向こうに回し、見事アジア1に輝いたほどの実績を誇るのだ。
一説によると菊正宗はそのお湯を見ただけでピタリとその温度を当ててしまう能力があるらしいのだ。
え?じゃーなぜ温度計を見ているかって?温度を知るためでしょそれは。
とにかく激しく罵られたニアピンは怒りの表情でなにやら大きな声を発した。
メラ!!
と呪文を唱えると小さな炎が両手から上がり、湯船のお湯にジュっとくっついた。
『菊チャン、温度測ってみてよ。フー…』
なにやら一仕事ニアピンはやり遂げたようだった。
その言葉を聞きすぐさま菊正宗はお湯の温度を測り始めた。
『うーん…36度をちょっと超えたところかー…36度をねー…
下がってるじゃん!体温かよこのお湯は!入んなくても一緒ジャン。』
ニアピンは頬を赤らめながら湯の温度を40度に設定してお湯を入れ始めた。
なぜ最初からそうしないニアピン。
やっとの思いでお湯の温度は40度ピッタリになった。
菊正宗はようやく溜飲を下げた。
サッと風呂桶にその40度のお湯を並々と入れると、それを背中に<ザブーン>と勢いよくかけた。
菊正宗は満足そうな笑顔を浮かべていた。
『さーて上がるかニアピン。』
え!もう上がるの?40度のお湯を背中に一度掛けただけでお風呂から出る菊正宗を見ながらそう思うニアピンであった。
と同時にこう呟かずにはいられなかった。
『40度のシャワーでいいじゃん…なんで風呂なんだよ。』
その呟きを脱衣所の影から聞いていた母ヤエは号泣していたらしい。
風呂から上がった二人は二階の菊正宗の部屋で着替えていた。
『菊チャンはやっぱその服かー、相変わらずハイカラだよなー菊チャン。俺は今日はこいつで勝負っスよ。フフフフ。』
そう言ったニアピンの格好は半袖のスーツいわゆる羽田孜元首相の”省エネスーツ”であった。
そしてもちろん菊正宗はレスリングのユニフォームにハイソックス、そして帽市はYGマークがまぶしいジャイアンツ帽でバッチリめかし込んでいた。
帽市の左側には故障中の清原の背番号”5”が書き込まれているのは言うまでもないことだ。
菊正宗は胸いっぱいに息をスーっと吸い込みそして吐いた。
勢いよく吸い込みスーっと吐いた。
そして大きな声でこう呼んだ!
『ヘアピン、いっちょやったろうか!』
この言葉を聞いたヘアピンはもういてもたっても…
<ヘアピン?ヘアピンって誰なんだ?俺はキツイカーブ
なのかなー。いやいや菊ちゃんがきっと間違えたんだ。
それとも俺以外に誰かいるのかな?>
そう思ったニアピンは恐る恐る後ろを振り向いてみた。
すわ?!なんとそこにはニアピンそっくりの男が立っているではないか。果たしてヤツは誰なんだ?ニアピンが首をかしげるとその男も一緒になって首をかしげている。
<ものまねまでしやがって>とニアピンは思ったのだがどうにもその男の様子がおかしい。
なぜならニアピンとまるっきり同じ服を着ているのだ。<もしや>と思ったニアピン、そいつの顔に自分の顔を思いっきり近づけてみた。
そして会心のニアピンスマイルを見舞ってやった。
するとどうだ、まるで同じ事をヤツもしているではないか。<そうか、そうだったんだ>ニアピンはようやくその男の正体に気づいたのだ、そいつは鏡に映ったニアピン本人だったのだ!
そしてそいつの左胸にはなんと?!

第六話 熱いお湯は好きですか?

(完)

次号を「偽札使ってみませんか?」お楽しみに!

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