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第四話自分の目標ありますか?


ゴゴラドドラの店内は、湿度98%室温39度とてつもない暑さであった。『ドンドコドンドコドンドコドンドコドンドコドンドコ』と、中に行くにしたがって太鼓の音がどんどん大きく響いてきた。
それにしても暑い。普通の人たちならばどうにかなっている暑さだ。
マスターの意向でこれほどの暑さにわざとしているそうだ。店内はろうそくが何本かある程度で大分暗かった。これもマスター曰く演出らしい。菊正宗はちらりと愚痴をこぼした。
『それにしてもバカ暑い店だなー。俺がさっきこのユニフォームに着替えてなかったらやられてたな。めし食うどころの騒ぎじゃないぞ。あ!ニアピンさんは大丈夫だろうか?心配だなー。』
そこへニアピンが少し遅れて店内に入って来た。
ちなみに社長と専務と万年係長は少し先に店に来ていたようで、それぞれ社長と専務は浴衣で万年係長はラグビーのユニフォームだった。さすが常連、よくこの店をわかっていらっしゃる。
ニアピンとてやはり常連である。当然きちんとした身なりで店に入ってきていた。さすがニアピンあっぱれあっぱれ、ごく普通のスーツを着て汗だくになってフーフー言っていた。駄目じゃんニアピン。
『まいったよ菊正宗。俺とした事が四月バカかな、しかも冬服のほうで来ちゃった。ちょっと俺着替えて来るよ。殺られる前に殺れってな、ふふふ。』
そのやりとりを見ていたマスターの石屋寛蛇(−いしやかんじゃ−通称ドクタークランケ)は独特の大きな目をギョロギョロさせながら、タラタラ汗をたらしニヤニヤしていた。
『この絵にはそれはそれは恐ろしい話しが纏わっているんですよ。それはね・・』
などとブツブツブツブツつぶやいていた。
社長が菊正宗をあごで「くいくい」っとこちらへ来いとジェスチャーしたのだったが、菊正宗はよく意味がわからずに同じように社長に向かって「くいくい」っとあごでこちらへ来いとジェスチャーしかえしてしまったのだ。菊正宗が並みの馬鹿ではないのを思い出した社長は、
『武蔵川君、こちらで一緒に食事を摂らんかね。もちろんわしがおごるよ。若いもんがお金の心配なんかせんでもいいって。』
菊正宗は社長の言った意味を理解したらしく、すぐそちらの席へ移動をした。マスターにはニアピンが来たらこっちへ来てると伝えてくださいと頼んでからそちらの席へ移動した。
浴衣姿の宗像社長が川島専務と楽しそうに談笑している。
『しかし川島君はあれだね、ピンポンうまいなー。昔やってたんじゃないのかね。わしだってあの小山ちれと一緒に握手をした事もある男じゃぞ。そのわしを赤子のおしめを変えるような感じでさらっと勝ってしまうんじゃから君以外な才能があるのー。』
川島専務はうちわで顔を扇ぎながら、
『とんでもない社長、下手の横好きですよ。なんて言って実は昔ナショナルチームでやっていた事があるんですよピンポン。オリンピックの候補選手だったんですが、選考会の前の日にブッチャーの地獄突きを会得するのに小石を熱したものをバケツに入れましてね。そのバケツの中の小石に向かって何度も何度も地獄突きを繰り返したんですが案の定火傷をしてしまいまして・・、オリンピックはパーになってしまいました。あの頃はオリンピックより地獄突きだったんですねー。私も若かったですよ。それよりも社長もピンポン相当やるじゃないですかー。でも一セット目は私が温泉に浸かっている間に延々と社長は一人でサーブを繰り返していたもので、てっきり練習をしているかと思いましたが時折「チッ!」とか「ナイスコース!」なんて声がしてくるものですからおかしいなーと思って、急いで湯船から出てきたらなんと21−5ってスコアで社長の勝ちになっているのには驚きましたよ。ずっと一人でサービスを繰り返していたんですね。しかも5回もミスをしていましたし。でもそこが社長のいいところなんですがね。』
社長はしきりに照れながら、
『よしてくれよ川島君。君に誉められるとなんだか尻の穴がこそばゆくなってしまうよ。わし虫でも飼ってるのかなー?ほんとに痒いよ。家に帰ったら愛犬のチェルノブイリ(愛称−メルトダウン−)の虫下しでも飲むとするか。そう言えば今日はお加代は休みかー。わしと会うのが恥ずかしくて出てこれなかったのかな?ぶわーはっはっはっは!』
そんな会話がなされている中、会心の笑顔でブラウンがこちらに向かって歩いてきた。
『ヘーイ、皆サン。何をそんなに汗を掻いているんデスカ?インドはこんなもんじゃナイですヨ。こんなのインドの真冬と同じデスヨ。真冬とネ。イヤーハッハッハ!』
けたたましいブラウンの笑い声が店内に響き渡った。
と同時にフニャフニャっと脱水症状で倒れてしまった。
会心の笑顔でえらそうな事を言っていたブラウンだったが今は口から泡を吐いていた。まさに蟹のようにね(たらばでもずわいでもお好きな蟹で・・・)
どうやら相当やせ我慢をしていたみたいだ。
『カレー・・カレー・・』
とうわ言のように何度もつぶやくブラウンを見て菊正宗はマスターに怒鳴りつけた、
『カレー一丁!』
この言葉を聞きブラウンは静かに息を引き取った。
さよならブラウン僕らはいつまでも君を忘れないだろう。
その姿を見た社長が静かに語りはじめた。
『ブラウンのその大量の泡を見ていると、あのバブルの頃を思い出すなー。あの頃は毎日がそりゃバラ色の人生じゃったよ。しかしあれだな、バブルの頃はあの泡の中でわしらは踊らされていただけかもしれんな。まさに阿波踊りならぬ
泡踊り、なんてなー。ぶわーはっはっはっは。』
歩く核爆弾、人間クルスクの異名をとる宗像社長のファイナルギャグが炸裂してしまった。
このファイナルギャグによる犠牲者は死者6名、行方不明者3名、中州に取り残された人8名、ミイラ化した遺体1体、ザ・グルと名乗るもの1名、「サイコーですかー?」と叫び続けるもの1名、カレーをむさぼり食うブラウン1名、スプーの魔法のラッパに合わせて虹のゲートをくぐっているもの数名、「ミキプルーン」と中井喜一の真似をし続けるもの1名など数え上げればきりがないほどの大惨事となってしまった。
ちなみにこの時川島専務は逮捕された時の幻覚を見ているようで
『全部黙秘します!』
と力強く言い放って黙りこんでしまっていた。
菊正宗はこの悲惨な惨状を見て意を決したように、息をすーっと大きく吸い込み徐々に徐々に気を大きく溜めているようだった。
そして次の瞬間
『パルプンテ!!!』
と店内が割れるかと思うほどの大きな呪文を唱えた。
するとどうだ、先程までの大惨事がうそのように正常な状態を取り戻したではないか。
しかしザ・グルと名乗る人物だけは今だに、
『私の血管には空気が流れているんですよ。』
と訳のわからない事を話しているところから元々精神病だったようだ。すぐに彼は病院収容となったのは言うまでもない。
宗像社長は目を白黒させながら菊正宗におそるおそる問い掛けた
『む、武蔵川君。今のあの「 パンプキン!」ってのはなんじゃあれは?まさかわしのファイナルギャグによる大惨事をまさに見事な手際で正常な姿にしてしまうとは、いやー君はなんともはやGoodじゃよGood!なんて熱い魂(ソウル)を持った男なんじゃ。まさに、I like susi(私は寿司がすきです)じゃよ。ぶわーはっはっは。』
自分が犯した事の重大さなど全く気にした感のない宗像社長であった。
菊正宗は、社長にこう説明した。
『社長、パンプキンじゃカボチャですよ。パンプキンではなくパルプンテですよ。古来の古より伝わる究極の呪文なんです。ただ何が起こるかは全くわからないので僕も半身不随でしたよ。』
菊正宗も大分興奮しているようで半信半疑と半身不随をまちがってしまうほどの状態であった。逆にそれほどの大仕事だったのもまた一つの事実なのだ。
社長もなにやら大きく息を吸い込みものすごい真面目な表情で黙りこくってしまった。
『・・・・・・・・・ぷはー。ふー、川島君今ので何秒?』
どうやら気を溜めるのと息を止めるのを勘違いしているようだった。
『30秒ジャストでございます社長。昔ほど息が持ちませんね、私でしたらマジストーキングの場合10分はいけますがね、ふふふふ。』
川島専務もようやく自分を取り戻したようだ。
社長は続けざまに、
『パンプキン!!!』
となんだかまたまちがった呪文をでかい声で唱えた。当然なにも起こらなかったが、マスターがサービスでカボチャを1個持ってきてくれた。
このマスターのカボチャ1個でどれだけ宗像社長の心が救われたかは説明するまでもあるまい。自分の呪文でもカボチャ1個が出てきたと言う事実が宗像社長にはたまらなくうれしかった。
菊正宗はその様子を大笑いをしながら見ていたよ。
『はっはっは!社長、パンプキンじゃカボチャしか出てきませんよ。しかも気の溜め方がぜんぜんなってないじゃないですか。いいですか、気を溜めるって言うのはこうね・・』
菊正宗は先程と同じように息をスーっと大きく吸い込みそして手のひらを合わせ、その手のひらを花のように開き腰をぐっと落としてやや半身に体勢を変えてその両腕を右の肝臓の辺りにグッと引き寄せながら、
『かー、めー、はー、めー、波ー!!!!』
と打ち放った。そう言えば先程お手洗いに行きますと言って帰ってきた菊正宗の髪型は、多分脱色をしたのであろう金髪になっていてスーパーハードスプレーを3本使ったほどに天に向かって立ち上がっていたんだ。まさしく<スーパーサイヤ人>に変貌をしていた。
でもユニフォームはそのままだったのさ。
そのかめはめ波はマスターのドクタークランケに向けて放たれていた。そのかめはめ波を打つ寸前に万年係長が菊正宗の異変に気づき、すんでのところで、
『どどん波!!』
とそのかめはめ波に向かってどどん波を放った。
まさに紙一重の所でさらなる大惨事は避けられた。
万年が菊正宗に怒鳴りつけた。
『武蔵川、おまえスーパーサイヤ人でのかめはめ波を打った場合にどんな事になるかぐらいわかってるだろう。もう少しヒューマニズムを持って行動しろ!お前の気持ちもわからなくもないんだぞ俺も。』
しかし菊正宗も腹にいちもつあるようで、万年に対して敵対心をあらわにして、
『だって万年(もー呼び捨て)、マスターはさっきからずっとニヤニヤしてるばっかりで何も俺達が頼んだ注文を作ってないんですよ。今時計を見てくださいよ。もう午後3:00過ぎてるんですよ。なんで一向に注文の品が来ないんですか?俺だって本気のかめはめ波を打ちたくもなりますよ。ってゆーか打ったし。』
万年係長はその菊正宗の気持ちをすべてわかった上でこう諭した、
『武蔵川いいかー、マスターはなさっきからニヤニヤしてるだけだとお前やほかのみんなも思ってるだろうけどな、マスターは俺はずっと見ていたけど自分でみんなの注文をすばやく作ってそれを自分でさらにすばやく食べて、それを繰り返して作っては食べ作っては食べをずーっと繰り返してるんだよ。わかるか武蔵川!マスターはな今<一人びっくり日本新記録>に挑んでるんだよ。武蔵川、そんなマスターを誰が責められる?いーや誰も責められんよ。マスターはああ見えても最近奥さんと別れてさー、その理由が奥さんが梅図かずおフリークだったってのが最大の原因なんだ。マスターはあの通り堅物だろう。自分は日野先生の崇拝者だからあの<まことちゃん>ってゆーギャグマンガを書いた梅図かずおが許せなかったんだよ。それからと言うもの、マスターは離婚のショックでしばらくは何もやる気が起きないほど憔悴しきっていたんだ。でもここのところ随分と元気が出てきてな。ほれ、前よりも大分目もギョロギョロするようになったし、何より汗の量がちがうよ。そんなマスターの今の唯一の目標が「−轟二郎超え−」らしいんだ。さっきお前は気づかなかっただろうが、俺に向かって右手の親指を突き上げてたんだぞ。あのマスターのあんな姿、俺は初めて見たよ。わかるか武蔵川。マスターは今日この瞬間にびっくり日本新記録を樹立するかもしれないんだぞ。轟二郎をついに超える時がきたんだよ。俺はそんなマスターの気持ちを考えるともう・・・・・飯を一食ぐらい抜いたからってそれがどうしたってんだ・・・マスターに比べりゃそんな事・・。』
万年係長は言葉にならない声を発すると、ボロボロになったラグビーボールを涙でぬらしながら縫い合わせていた。マネージャーの気持ちはうれしいが俺には妻も子供もいる。君の気持ちには応えられん。そんな気持ちを口に出せない自分がもどかしい万年係長だった。
そんなマネージャーもそれから間もなく飛び降り自殺で命を落とす事になるとは・・・さらばユッコみんな君を忘れない。
あれ?ちがうよちがうよ(ちょっとケントデリカット風)ユッコじゃ岡田有希子じゃん。ロマンチックが止まらないだよ。え!これも違うって?わりーわりー、ロマンチックに誘われちゃうだ。うん。
それにマネージャーは岩崎良美=タッチだったよ。
「ちょっとあれー見なー、エースがとーおおるー。」
だったよねータッチ。何?それはキャプテン翼だと!あーそうそうそうだった。これじゃー故ヒロ君の持ち歌だったよ。
ふいー・・ノッて来たよー。
そんな訳で今日のマスターはあの轟二郎超えを狙っている為、昼ご飯はどうやら抜きになりそうな気配であった。
『しょうがないか。マスターの一世一代の大勝負だもんな。俺もチャンスがあれば、氷の上を「ダー」って頭からすべっていくあれででも挑戦してみるか。こりゃ仕事どころじゃなくなってきたぞー。山は高ければ高いほど征服しがいがあるってもんだしな。』
みんなはそんなマスターにエールを送って店を出ようとしたが、その時であった、
『パパパパパーパーパパパー』
とドナドナに設定した菊正宗の携帯がふいに鳴り響いた。
『もしもし?あーなんだジャイ子(吉宗の妹)かー。どうしたこんな時間に、え?なんだって?わかった。じゃー今から俺は母さんを告訴する準備を進めるから、お前は父さんの背中でも流してやってくれ。40年勤めてきた会社にリストラされたんだ。40年間の垢を落としてやれって。それにしてもあのアル中めー!許さんぞ。』
一体菊正宗家に何が起きたのか?
そこへ素っ裸で股間に貝殻一つをまとったニアピンが、家からその格好で来たため通報された警官をなんとか振り切ってゴゴラドドラに到着した。
『間一髪セーフ!ふーいあぶねーあぶねー、あの警官俺に拳銃を向けてやがったよ。威嚇射撃で一発空に向かって打ってたしな。帰りは着替えて帰らないとこりゃやばいぞ。尿検査なんか受けたら薬物反応なんかも出ちゃうだろうしな。今日俺打っちゃってるもんなーシャブ。ん?どうした武蔵川そんな険しい顔をして、何かあったのか?』
ニアピンそんな菊正宗に問い掛けたが、厳しい顔をして押し黙ったままの菊正宗であった。
一体菊正宗家に何が起きたのだろうか。


第四話 自分の目標ありますか?

(完)

次号「2002年はどうですか?」をお楽しみに!

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